検証! サンルダムの目的 -洪水対策(内水はん濫)-

●山あいの平地に田畑が広がる名寄川流域(下川町上名寄)
サンルダムの建設目的は、「治水・利水・発電」とされています。
今回からは、治水(洪水対策)としてのダムの効果を見ていきます。
外水はん濫と内水はん濫
水害の発生原因には、大きく分けて2種類あります。一つは、河川そのものが洪水によって溢れてしまう「外水はん濫」です。もう一つは、河川が溢れるいがいの要因によって、堤防の内側(宅地や畑など)が水に浸かる「内水はん濫」です。
内水はん濫とその要因
内水はん濫は、一般的には水位がゆっくり上がっていきます。流量や流速が小さいために、浸水はしても、家屋流出等の破壊的な被害にはなりにくいことが特徴です。
内水はん濫の発生要因は、下図のようにさまざまであり、要因のそれぞれが関係しあっている場合もあります。

●内水氾濫の発生要因はさまざま。
名寄川最大の水害は内水はん濫
サンルダム建設を盛り込んでいる天塩川水系の河川整備計画は、過去最大の洪水として1981年(S56)8月洪水を想定しています。この洪水では、名寄川の流域一帯で、約1200haもの浸水被害が発生しました。この大部分は、内水はん濫とされています。
この洪水で、名寄川の堤防から水が溢れた場所はなく、広範な浸水被害の発生を防ぐには、内水はん濫への対策が重要なことがわかります。
今回は、サンルダムの下流にあたる、名寄川流域の内水はん濫対策としての、ダムの効果について、検証していきます。
内水氾濫へのダムの効果説明
a.流域委員会の説明
2003年5月から2006年12月まで20回開催された天塩川流域委員会(開催費用は8億円)では、名寄川の下川水位観測所の水位資料を示し、内水はん濫対策としてのサンルダムへの期待を述べています。
「名寄川において、昭和56年8月洪水は、昭和48年洪水に比べ、ピーク流量は小さいが、EL140m(堤内地盤高)以上の水位の継続時間を比較すると2倍程度も長い。このように、昭和56年8月洪水では、名寄川の支川においても同様に高い水位が長く継続し、内水による被害が広がったと推定される」(流域委員会資料15-1)

●名寄川流域の浸水発生状況と、名寄川の水位を示した図
名寄川の高い水位が長時間続いた状態が、名寄川流域の広範な内水はん濫の原因になったという趣旨の説明です。もっとも、河川整備計画では、内水はん濫の対策を具体的に検討した記述はありません。
※名寄川の下川観測所は、サンル川合流点よりも上流に位置するため、サンルダムの効果は直接には及びません。名寄川を代表する地点としての扱いになっています。
b.国会での説明
政府(福田康夫総理大臣)は、サンルダムの内水氾濫に対する効果として、国会質疑で、次のように説明しています。
「内水対策としては洪水時の水位の上昇をできるだけ抑えることが有効であることから、整備計画においては、本支川及び上下流のバランス等を考慮しつつ、サンルダムの建設及び河道掘削等を行うこととしている」(2008年4月25日参議院・紙智子議員による質問への答弁書)
ダム建設によって河川の水位を下げることが、内水はん濫対策として有効であるとしています。
2006年10月、名寄川最大クラスの洪水が発生
実は名寄川では、流域委員会が開催されている間の2006年10月に、「過去最大」クラスの洪水が発生していたのです。この洪水の際の名寄川の状況を見ていくことで、名寄川流域の内水氾濫に対する、サンルダムの効果を知ることができます。
2006年10月洪水の名寄川は、1981年洪水を大きく上回る水位・流量になりました。継続時間も、同等以上に長くなっています。しかし、名寄川の堤防区間では外水氾濫は発生せず、内水氾濫もごくわずかな面積にとどまりました。
1981年8月洪水と、2006年10月洪水とを比較してみました。流域委員会資料と同じ下川観測所の水位です。
※時刻水位図はこちら●名寄川下川観測所の水位データ。河川を上流から見た断面図。
1981年8月洪水時の名寄川の水位は、開発局の説明とは異なり、下川観測所では地盤高よりも相当に低いものでした。名寄川のほぼ全区間で同様です。これならば、ほとんどの農業排水路などの枝支流は、問題なく名寄川に合流できるでしょう。
また名寄川の最高水位は、2006年10月洪水の方が1mほども高く、周囲の地盤高よりも高くなっています。しかし2006年洪水では、内水氾濫被害はごく部分的であり(浸水地域の分布・面積は未発表)、1981年洪水のような広範な被害は生じていません。堤防から水が溢れる外水氾濫も、名寄川の堤防区間では発生しませんでした。
流域委員会では、2006年に目前で生じたこの過去最大クラスの名寄川の洪水について、委員の専門的立場から調査や議論がされることはありませんでした。開発局が、広報資料を配布しただけの対応でした。
サンルダムと無関係な内水はん濫
ここまでの検討から、1981年8月洪水において、名寄川流域で発生した広範な内水氾濫被害と、このときの名寄川の水位は、ほとんど無関係であることがわかりました。1981洪水では、サンルダムが関係できる名寄川の河川水位によるものではない、「その他の要因」によって、内水氾濫被害の大部分が生じていたようです。
ただし、「その他の要因」については、流域委員会で示された資料からは、水害当時の状況が全くわからないため、ここで検討することができません。
正しい検討による正しい対策が必要
国(北海道開発局)は、内水被害の発生原因に関して、正しい調査分析を行うことなく、実際の被害と無関係な名寄川の水位(サンルダムの効果)に短絡させ、流域委員会や国会で誤った説明を行っていたことが明らかになりました。専門家集団であるはずの流域委員会も、実際に目前で発生した過去最大クラスの洪水に対して、現地調査も被害や原因の分析も行いませんでした。
現実の災害に目を向けることのない、このような姿勢では、たとえ何億円かけて何十回の委員会を開催しようとも、地域の防災を考える上では意味をもちません。
冒頭に述べたように、水害そして内水はん濫の発生要因はさまざまです。簡単に予測や対策ができることもあれば、他の要因と関係して対策が難しい場合もあります。
今後に1981年8月洪水と同様の災害(広範な内水はん濫)が発生することを防ぐには、ダムの効果の空想から離れ、過去に生じた水害について詳しい調査を行い、正しい原因分析に基づく、正しい対策を行う必要があります。
実際にその土地で暮らしている、流域の住民の参加と協力によって、過去の水害の実態を探ることが、まず大切と思われます。

●名寄川流域で内水はん濫被害が頻発する下川町上名寄地区。
近年のヤフー地図と、1948年の航空写真の比較。
名寄川の褶曲部に堤防を築き、農地として利用していることがわかる。
地盤が低いために内水はん濫が生じる場合には、盛土による地盤のかさ上げが有効。

●内水はん濫対策として有効な排水ポンプ場(北斗市内茂辺地川)
本流(手前)の水位が上がり支流が溢れる場合には、水門(左)を閉じて
本流と支流を切り離し、排水ポンプ(右)を用いて排水を行う。




